歌うことの意味

もう1ヶ月以上前のことですが…富士見中合唱クラブが、重唱のコンクールで金賞をいただきました。

素直に、すごく嬉しかったです!コロナ禍があったり、部員が少なかったり、厳しいところから粘って、みんなで一つ一つ階段を上がってきたので。

私自身初めての経験ですし(野球部だったし)、富士見中としても、もしかしたら初めてかもしれません。

正直、私自身はあまりコンクールが好きではなかったんです。

特に指導を始めた頃は、コンクールの殺伐とした雰囲気や噛みつくような演奏に、「これは合唱?子どもたちの音楽教育としてどうなんだろうか?」と強い違和感を持っていました。

「◯◯コンは戦争です」「◯◯中は強い、◯◯中は弱い」と言った言葉も、いろいろな学校の子どもや先生や保護者から、何度聞いたかわかりません。私にはそういった価値観は受け入れられませんでしたが、コンクールは音楽家として子どもたちに何を伝えていくかを自問する、一つのきっかけになりました。

(もっとも今はだいぶ子どもたちの表情もよくなってきて、やっぱりコロナ禍の中で大人も子どもも心に余裕がなかったのかなあと、改めてその影響の大きさを感じています)

もしコンクールで結果を出すことにフォーカスするなら、私が教え込んで細かく指導する道もあったと思います。でも、音程一つをとっても、言って直せばその子の歌はよくなるかといえば失うものもあるんですよね。みんな発展途上で、プロじゃないので…。

ちょっと遠回りに感じたことも正直あります。でも何より大切なのは、子どもたちの人間的な成長。歌う楽しさ、声を合わせる楽しさを伝えること。

結果より成果、成功より成長。順序を間違えないよう、指導する自分に言い聞かせてきました。

この一年間、地域でのコンサートの機会をたくさんいただきました。たくさんの方に私たちの合唱を聴いていただき、心からの拍手をいただけるようになりました。部員にとっては大きな励みになり、日々歌う意味の一つになったと思います。

クラブの目標「幸せ〜仲間を信じて、笑顔で歌を届けよう」は、子どもたちが考えてくれました。

私はこの目標の深さに、いつも考えさせられます。

いろいろあるけど人を信じること、いろいろあるけど前向きに笑顔で生きること。その姿や思いを歌を通じて誰かに届け、伝え、表現すること。

人間の幸せを見つけるヒントが、自分だけでなく自分もみんなも幸せになっていけるヒントが、この目標にあるように感じています。

目立たないけど確かな成果をたくさん積み重ねてきて、歌うことの意味や幸せをたくさん味わって、いつの間にか力をつけていたんですね。今回のコンクールはどの学校よりも伸びやかに、生き生きと、豊かに歌ってくれました。

そして「私達こそ金賞をとる!」という演奏ではなく、会場全体を包み込む、心温まる演奏でした。

勝ち負け・強い弱いではなく、同じ合唱を楽しむ仲間を大切に思い、他の学校の生徒さん、親御さん、審査員のみなさん、もちろん自分たちも、みんなが笑顔で幸せになれる合唱をつくり、届けてくれました。

また他の学校の演奏も身を正して聴き、心からの拍手を送りました。本当に誇らしい姿でした。

コンクールでも、コンサートでも、歌うことの意味は変わらない。そう信じて歩んできた今までのすべてが、一つの目に見えるカタチになった瞬間で、本当に嬉しかったです。それがちゃんと審査員の先生方に伝わったことも嬉しかった。

そして何より今まで私を信じてついてきてくれた子ども達に、コンサートだけでなく、コンクールの楽しみも知ってもらえてよかったです。やっぱり目に見える結果も大きな励みになりますよね。

みんなに素晴らしい瞬間をありがとうと伝えたいし、今まで頑張ってきてくれた先輩の部員のみなさん、支えてくれたたくさんの方々にもありがとうございますと感謝を伝えたいです。

最近、私の大好きな作曲家、信長貴富さんのこんな言葉に出会いました。

「コンクールはある種閉じられた世界と言える。
その外側で合唱活動が社会に接続する時、本当の喜びが生まれるのかもしれない。

それらはコンクールのように新聞で取り上げられることはないし、目立たない活動かもしれないが、人々の間に根を下ろす芸術の姿がそこにあると思う。」

この言葉に、私が今まで感じていたことが腑に落ち、報われた思いがしました。

ああ、私は芸術に向き合ってきたんだ。
合唱とは何か、音楽とは何か、子どもたちと一緒になって追い求めてきたんだ。みんなありがとう…

合唱には、人間が人生で出会うことのすべてがあるように思います。だから難しい。だからたのしい。

いつの間にか、私は合唱指揮・指導のスペシャリストとして、たくさんの学校や子ども達、地域の方々に関わらせていただくようになりました。

何より私自身が合唱を通じて、人が生きること、その幸せについて深く学ばせていただいています。本当にありがたく、幸せなことだと感じています。

子どもたちと一緒にコンクールで金賞をいただけたこと。みんなで頑張って、みんなで喜んだこと。今回の経験が、またいろいろなことに気づかせてくれました。

だから、はたからみれば小さなコンクールの小さな結果かもしれませんが、私はすごくすごく、すごく嬉しいです。